2017年3月5日日曜日

『ベロニカは死ぬことにした』パウロ・コエーリョ

三作目のパウロ。
『ベロニカは死ぬことにした』パウロ・コエーリョ 訳:江口研一 角川文庫


どうしてこの人は刻一刻と姿を変えていく生物「女性」をここまで的確に書けるのだろう。女性ではないのか、と思わせるほど。『11分間』で強く抱いた謎は継続。愚鈍な男ほど、読むべき作家な気がする。理解できるかは分からないが、新発見があるはずだ。

狂っている方がフツー。自己肯定もされたような気分。
元々フツーじゃなかったのは、ひとつ。小さいころからずっと、「あなたみたいな人には出会ったことがない」と、言われ続けて、異国人がられることにはすっかり慣れていて、しかもそれはぼくの心を傷つけるよりも、どちらかというと喜ばせるものであり(マゾっ気が盛んなのかもしれない)、どうやら多分、何かが浮いていた。心が常人より浮いているんだと思う。しかし、特に出る杭を叩く輩にも出会わず、むしろ面白がってもらえる環境、人が常にあったのは、非常に幸運であろう。そこにかんしては多様性の代名詞・新宿に生まれ育ったおかげ。なんといっても、何でもアリな愛に溢れた父・母のおかげであろう。
今、ここで、ぼくはそんなに浮いていないと思っている。というか、至極まともではないか?と思い出してもいて、それが錯覚であることをパウロさんや、とある本に今改めて気づかされ、肯定してもらっているところ。
ぼくが変わったのではなく、まわりの誰もがここでは浮いているから、差が縮まっているのではないか、と。それが居心地の良さにつながって、ぼくを一点につなぎとめているのだろう、と。
支笏湖。本当に不思議なところ。

フツーのところにいると変なヤツ、が変なヤツだらけのところにいると、「フツー」になる。
ぼくは「フツー」に前世でのトラウマか何かがあるのかもしれない。フツーという言葉を忌み嫌って高校でも「普通科」になんか属してなるものかと父の助言もあり総合学科(大学のようにカリキュラムを自分で組めるので興味のある分野を特に学べる)に入学した。

フツーという本道を歩かず、否、歩けず?
どちらにせよ、メインストリートへの魅力は一切感じず(感じないようにした?)、人通りのない脇道にこそぼくの好奇心はいつも疼いていた。
誰かのことを言えるほど、ぼくはいたってフツーじゃない。
そのおかげで、好きなものへの異常なこだわりが今の仕事の原動力となっている。

自分の特性を見極め、能力を最大限生かせる場をつくれれば、それほど素晴らしいことはない。
短所を殺すのではなく、抑え込まずにむしろ解放することが、つまり長所をとことん伸ばすことであり、可能性の芽をいくらでも膨らませていくための方程式だ。ダメなところを含めて、妥協とは逆路線で、全部を許し、受け入れることができれば、それは他者をまるっと受け入れられることを意味する。
自分を愛すること。やっぱりそれができないことには本質的に誰かを愛することなどできない。自己と他者に線はかつてなかったはずなんだ。ひとつだったころに還るだけ。

ということで、‥狂ったまま、行こうぜ。
※カヌー乗り・野田知佑さんは「のんびり行こうぜ」。

書評失格。以下、
ずきゅん!sentence掲載。

ベロニカ「誰も、何に対しても慣れてしまってはいけないのよ、エドアード。わたしを見て。わたしはもう一度、太陽も、山も、人生の問題でさえも、楽しめるようになってきたの。人生の無意味さが、自分の責任以外の何ものでもないことを受け入れ始めたところなの。もう一度リュブリャーナの中央広場が見たくて、憎悪も、愛も、絶望も、退屈も、人生を成すそんな簡単で取るに足らないながらも自分の存在に喜びを与えてくれるものを、感じてみたかったの。もしいつか、ここから出られたら、本当に狂うことにするわ。実際、誰もが狂っていて、一番狂ってる類の人たちこそ自分が狂ってることに気づいていなくて、他人に言われたことを何度も繰り返すような人たちなのよ。」(p.117)

マリー「あなたもそうあるべきなのです。狂ったままでいながら、普通の人のように振る舞うのです。人とは違う存在であることの危険を冒しながら、注意を惹かずにそうすることを覚えなさい。この花に集中して本当の“わたし”を出してあげなさい」(P.124)

ベロニカ「要するにね、イゴール博士、顔に雨を感じて、魅力的だと思う男性に笑いかけたいの。母親にキスして、愛してると言って、その膝で泣いて、感情を見せることが恥ずかしいことだなんて思いたくないの。隠そうとしてたけど、ずっとそこにあったものだから。」(p.169)

ゼドカ「また死ぬなんて言う前に、話しておきたいことがあるの。きのう、あなたが体験したような瞬間を、一生探し求めても、絶対に見つけられない人もいるのよ。だからもし、あなたが今死ぬことになっても、愛で胸がいっぱいのまま死ぬことになるわ」(p.198)


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